NHK長崎放送局からの回答に対する会長談話(2019年8月9日)

長崎原爆の日を迎えました。この特別な日に併せて、7月26日に「もういちど“長崎の原爆”をみつめる「焼き場に立つ少年」をさがして」がNHK長崎放送局の制作によって放送されました(8/3再放送・8/9全国放送)。
しかし、残念ながら番組では不適切な内容が散見されましたので、8月7日(水)に訂正や説明を求めて要望書をNHKに提出し、その後報道関係者向けに記者会見でこの間の経過等を説明させていただきました。
その後、8月8日に当協会から提出した要望書に対する回答がNHKから寄せられました。これに対して、当協会では本日会長談話を発表しましたのでお知らせいたします。

NHK長崎放送局からの回答に対する会長談話

令和元年8月9日
長崎県保険医協会
会長 本田 孝也

8月8日、遠藤 理史NHK長崎放送局局長より前日に提出した要望書に対する回答をいただきました。
迅速な対応には感謝しますが「字幕の間違いは聞き間違いで、その他は問題なし」という説明には失望を禁じえません。
番組では少年の被爆地点の候補としての「戸石村の牧島の見える港近くの浜辺」は理由もなくカットされました。戸石村は爆心地から10Km離れた地点で、少年の被爆地点が戸石村とすると、少年と弟は残留放射線により被曝したことになります。おそらく残留放射線による被曝では被爆者とは認めないという国の方針に配慮したものと思われますが、都合のよい情報は採用し、都合の悪い情報はカットするのはよくないと思います。
回答では字幕の間違いは聞き間違いとの説明ですが、通常は「長崎に行きよらした(行っていた)」を「長崎へ引っ越した」とは聞き間違えたりしません。医学的に考察すれば、被爆地点を爆心地近くにしたいという深層心理が強く働いた結果、担当者が聞き間違えてしまったのではないかと推測されます。また、視聴者にお詫びも説明もなく再放送で訂正したのもよくなかったと思います。
回答に「断定できることと断定できないことを峻別しながら」とありますが、写真のカラー化のシーンで「体中が出血しやすくなっていたと、考えられるからです」と断定的に表現しています。しかし、目に出血の跡の可能性があるからといって、「体中が出血しやすくなっていた」とはいえません。
齋藤先生が指摘したのは出血の可能性です。断定できることと断定できないことの峻別を間違えると結論も違ってきます。鼻栓と目に出血の跡の可能性があるからといって少年が銭座町で被爆したとはいえません。
少年の鼻にあるのは鼻栓と断定された訳ではありません。ところがカラー化では鼻栓だけ色がついていないので、あれでは鼻くそにみえます(実際そうかもしれませんが)。せっかくの写真が台無しです。それでいて少年の唇に滲んでいた血はカラー化されていません。都合のよい情報は採用し、都合の悪い情報はカットするのはよくないと思います。背負われている弟の血色がよいのも不自然で、まるで生きているようです。
回答では「また吉岡栄二郎氏の著書「『焼き場に立つ少年』は何処へ」については、番組冒頭でこうした先行研究があることをきちんと明示しております」とありますが、表紙の映像と「少年の足取りや撮影地について調査した内容をまとめたものです」のナレーションをもって「きちんと明示した」ことにはなりません。これだけで「少年が戸石村の上戸明宏ではないか」「焼き場は矢上ではないか」「少年は戦後郷里の諫早に帰った」の情報源が吉岡氏とはわかりません。NHKの功績と考える視聴者が多いのではないでしょうか。
「上戸明宏」と長田小学校の卒業名簿の「中村明廣」が同一人物という裏付けはとれていません。名前が似ているだけで裏付けもとらずに劇的シーンとして放映するのは報道人として恥ずかしくないでしょうか。
今回の「焼き場に立つ少年」の番組に問題がないというならば、NHK長崎の報道はどこまで信用してよいかわからなくなります。問題があるものを問題がないと意地をはらずに、誤りは誤りと素直に認め、再発を防止し、今後の報道、番組作りに生かす姿勢が大切なのではないかと思います。