2024年12月号掲載
能登半島地震ではじまった今年。9月には再び能登を豪雨が襲い、一方で記録的な暑い夏でもあった。「何十年に一度の…」とされる大雨が毎年どこかであるといった気候の変化、そして明らかに一昔前とは違う暑さに、地球の温暖化が進行していることを私たちは感じざるを得ない。今年もまた自然に翻弄されている人間の姿がそこにあった。
しかし、各国の利害が交錯する国際社会では互いの歩み寄りは難しく、この温暖化に対する効果的な方向性は未だ見出せていない。歩み寄りどころか深まる対立も存在し、今年はウクライナやガザでの紛争がまさに泥沼化していった。いったい、この世界はどこへ向かっていくのだろうか。
そんな今年、日本被団協がノーベル平和賞を受賞した。被爆者の方々の長年の活動が一定の評価を得られた証であり、核なき世界の実現への大きな一歩だろう。しかし、とはいえ地球温暖化への対策と同様に現実は多難だ。
先日長崎で「地球市民フェス2024」が開催された。核兵器の廃絶と平和な世界の実現のために、国籍など立場の違いを超えた「地球市民」といった視点を大切にしようという取り組みだ。この「地球市民」という発想を是非世界中の人びとと共有したいものである。
(浩)
2024年11月号掲載
袴田事件の控訴断念に続き、被団協がノーベル平和賞を受賞した。久々の快挙だ。袴田巌さんの無罪は姉あればこそ、永年の活動を支えたのは姉の一念だった。弟への信頼と無実の信念、身を捨てる覚悟は人々の胸を打つ。核廃絶を世界に訴え続けた山口仙二、谷口稜曄さん達には戦禍をくぐり抜けたが故の強さがあった。
人権や尊厳を蹂躙されたものの信念と覚悟の強さは政治家の比ではない。石破首相は就任早々、手のひら返し発言により不信を買った。彼らにとっては信念も覚悟も状況次第で変わるものなのだ。
田中角栄の後を継いだ三木首相も三角大福中の中では弱小派閥だった。だが大派閥に対しまだ骨があった。国民の信頼を取り戻すには、今回の総選挙敗北の原因である裏金事件や統一協会問題の抜本解明と真摯に向き合うことだったが所詮無理な注文だった。選挙をみそぎに使うとは不見識極まりない。禊ぎとは本来は神道的儀礼にすぎない。原因解明を徹底し、民主主義的かつ具体的な再生策を講じてこその再出発のはずだ。
日米地位協定の改定は喫緊の課題だ。首相の持論である核共有やアジア版NATO 、9条改憲を国民は求めていない。ノーベル平和賞受賞は国際世論の喚起に確実に貢献した。今こそ被爆国の首相として、核廃絶を通じた平和構築に舵を切るよう求めたい。
(人)
2024年10月号掲載
今年8月14日の長崎新聞に障害者5,000人解雇や退職の見出しで記事が出ていた。一般の人にはほとんど内容がわかりにくい記事と思われるが、これも社会保障費削減の一つである。今年度は医療、介護の改定とともに障害福祉の改定もあった。医療は公式には0.88%の増加とされているが、実際はマイナス改定であった。
記事に戻ると今次改定で収支の悪いA型事業所すなわち収入の減る事業所が閉鎖され、利用者、すなわち障害者が解雇されたというものだ。適正でない事業者のせいで働く人は悪くないのに突然解雇されたという事になる。障害者の働く場所はA型とB型がある。A型は、一般企業などで働くことが困難な障害者で、事業所と雇用契約を結んだ上で最低賃金が保証されて働くことができる。一方、B型は比較的高度の障害者で、雇用契約を結ばずに障害や体調にあわせて自分のペースで利用できるとされているが、障害の程度が高度のためA型で働けない人が利用する。
今回解雇された人たちは仕事を失うか、より収入の低いB型で働くしかなく、セーフティネットの縮小である。各市町は平成18年に当時の障害者自立支援法により介護保険に準じて1~6に区分して障害者を認定してきた。この人たちの仕事を奪う今次改定は、医療と同じ社会保障の削減。税金は高くて保証は低いとはあまりの行政のやり方である。
(一)
2024年9月号掲載
9月9日。待ちに待った判決が下った。2007年に始まった被爆体験者訴訟の一陣は長崎地裁、福岡高裁で敗訴。上告したが2017年に最高裁で敗訴が確定した。二陣は長崎地裁で10名が一部勝訴するも福岡高裁で逆転敗訴。上告するも2019年に最高裁で棄却された。
絶望からの再提訴。どうしても諦めきれない原告44名が2020年、長崎地裁に再び提訴した。被爆未指定地域で原爆の黒い雨や死の灰を浴び、汚染された水や食物により内部被曝を受けたのに、どうして被爆者と認められないのか。
明暗を分けたのは2021年。広島高裁は「黒い雨」裁判の原告全員の勝訴判決を下し、広島の「黒い雨」地域住民に被爆者健康手帳が交付されることになった。一方で長崎は対象外とされた。なぜ広島では手帳が交付されて、長崎では交付されないのか。歴代の厚労大臣は判を押したように「長崎では黒い雨が降ったという客観的記録がない」という説明を繰り返した。放射性降下物で被曝した事実は認めるが、黒い雨が降った記録がないので被爆者とは認められない。そんなバカな。黒い雨は広島では住民を救済し、長崎では住民を救済しない口実に使われた。
2007年の提訴から17年。長かった。もうこれで終わりにしてあげてもいいのではないか。速やかな政治決着を望む。
(考)
2024年8月号掲載
原爆が長崎に投下されてから79年目の夏である。協会は、原爆の日に岸田首相が来崎するのに合わせて黒い雨訴訟に関する署名運動を行った。短い運動期間に関わらず7月末には6千筆の署名を集め長崎市長に提出した。
この新聞が手元に届く頃には、すでに原爆の日は過ぎているだろう。岸田首相は長崎に来たであろうか。長崎に来て被爆者の方と会ったであろうか。会ってどれぐらいの時間一緒に話をしただろうか。被爆者手帳の交付を約束しただろうか。それとも、官僚が作った当たり障りのない文章を読み上げただけで済ませたのだろうか。
この新聞が届いたらまもなく終戦の日である。戦争をしていない、天気の心配はしてもミサイルが飛んでくる心配がないということが、ウクライナやガザ地区での出来事を見ていると、当たり前のようであり、奇跡的なことのようでもある。戦時中の多くの犠牲の上に成り立っている今の平和であることを考え、皮相な理屈や性急な議論だけで、平和のたがを緩めることがあってはならないと思う。
パリオリンピックの日本選手の活躍は素晴らしい。今回はあまり話題にならないが選手を支える競技団体が役員のための団体と化してはならない。話題にならない平和な頃に、静かに蝕まれていくのも世の常である。
(木)
2024年7月号掲載
空前の不祥事、裏金事件に端を発した「政治資金規正法改正案」は生煮えのまま自公の賛成で成立した。全くのザル法だ。自民党議員の百名近くが関係した事件のケジメがこの程度で済むとは到底思えない。
「国会が閉じれば政治とカネの問題は消える」と、ある与党議員は豪語した。彼らはこの問題の幕引きでリセットをはかり、来る総選挙に臨みたいという打算をあけすけに語る。なめられたものだ。
参院の論戦次第では法案成立が混沌としていたが、維新の衆院での賛成で流れが変わった。国民と野党は裏金問題の肝である企業・団体献金の禁止や、政策活動費の透明化や廃止、連座制の導入などを求めていたが、自民党には端から受け入れるつもりなどなかった。
岸田内閣の支持率は発足以来最低に沈む。打ち出す政策もとても国民本位とは呼べない代物だ。もはや死に体となった内閣は退場させ政権交代するしかない。国民の側も覚悟と気概が必要だ。スローガンは「選挙で変わる」 「選挙で変える」 「選挙を変える」で。ダメなものはダメ、行政に市民の声を、世襲や企業選挙とはさようならという意味を込めて。国民の支持を得た内閣が最初にやるべき仕事は「政治資金規正法」の改正なのは言うまでもない。決断するなら今でしょ。
(人)
2024年6月号掲載
今回の診療報酬改定は数字の上ではプラス改定と言いながら、実際には大きなマイナス改定だ。
高血圧、高脂血症、糖尿病の特定疾患管理料外しは、患者の必要に応じ丁寧に月2回の診察をしていた医療機関にとっては大きなマイナスである。治療計画書の発行はデジタル化、ペーパーレス化とは全く逆の発想である。在宅医療の減点、医療事務の煩雑さもこれまで推進してきた在宅医療の縮小化を招きそうだ。
今回新たに導入されたベースアップ評価料も手続きが煩雑でエクセルが不得意な人には手が出しにくい。またこれで得られる収入増加はすべて従業員のベースアップに使われないといけないことが周知されていない気がする。この点数を実際に算定する医療事務は対象外であるのも理不尽だ。本来アベノミクスで言われたトリクルダウンで下々にも利益が及ぶとした理論は間違っていたと今回表明したようなものだ。この理論が正しければ診療報酬そのものを上げれば煩わしい手続きなど必要なく従業員の給与は上がったはずである。実際に昭和50年代の初め、診療報酬の増加によって当時の当直料が数年で2倍になった時期があった。その後は診療報酬が上がることなく現在に至っている。電気、水道などの公共料金増加に沿った診療報酬増加をすべきだ。
(一)
2024年5月号掲載
アカデミー賞最多7部門受賞の映画オッペンハイマーが日本でも上映された。複雑な思いで鑑賞された方も多かったのではなかろうか。
第二次世界大戦末期、1945年7月16日、ニューメキシコ州の核実験場で世界初の核実験であるトリニティ実験が行われた。
その後の核実験が高い鉄塔や気球を使って地上500m付近で行われたのに対し、トリニティ実験は地上30mで行われた。このため火球が地面と接触し、膨大な量の誘導放射線が発生し、広範な放射能汚染を引き起こした。その範囲は爆心から320kmに及んだ。放射能汚染を起こすことがわかっていながら何故地上30mで行われたのか。以前から疑問だったが、映画を見てその理由がわかったような気がした。映画では実験当日の前夜、嵐の中で実験に臨むオッペンハイマーの緊迫した様子が臨場感豊かに描かれている。
米国が原爆の完成を急いだのは原爆で一刻も早く戦争を終わらせるためではなく、原爆が完成する前に日本が降伏してしまうことを恐れたからではなかろうか。日本が降伏してしまえば原爆を投下することはできない。
映画では原爆の圧倒的な破壊力について描かれているものの、放射能汚染については一言も触れられていない。その意味を考えながらエンディングロールを眺めていた。
(孝)
2024年4月号掲載
確定申告の時期、税金の相談サイトのコメント欄は、国会議員の裏金のことを考えると税金を払うのが馬鹿らしくなるという意見であふれていた。所得税どころか相続税を節税するのに政治団体を作ることが得策であることも議員の先生方が教えてくれている。
そんな政治の暗雲下で、別の嵐を起こしたのが、大谷翔平選手の通訳、水原一平氏の賭博問題である。大谷選手が眩し過ぎて水谷氏の陰に誰も気づかなかった。ギャンブルは単に損するだけの問題にとどまらない。生きとし生けるものが起こすあらゆる事件や社会問題の根底にギャンブルが潜んでいる。
日本の公営ギャンブルやパチンコの売上は世界のカジノの売上に引けを取らない。地元にカジノができなくて良かったが、ギャンブル大国日本の状況は変わっていない。大谷選手の問題は外国の富める者の出来事のようであり、実は、身近で常に起きていることである。
さて、初再診料の点数を急に問われて正しく答えられる先生がいるだろうか。マイナンバーカード云々を言い出すずっと以前から、パソコン無しの仕事は考えられなくなっている。たとえ仕事を辞めてもスマホ抜きには不自由な社会になってきている。DXに付いた点数も、最初から毛嫌いせずに上手に慣れていくしかない。
(木)
2024年3月号掲載
能登半島地震では、半島を囲むように走る道路網が寸断し対策が遅れた。江戸から明治にかけての能登は北前船の中継地として繁栄した。だが、陸路に代わってヘリやドローン、海路が活用されたとは聞かない。更に通信インフラの崩壊で情報が不足。何より自衛隊の投入も含め初動が遅れた。
電気はほぼ回復したが水やトイレ、風呂などのインフラは2カ月以上経過しても改善せず過酷な生活が続く。地震予知連絡会による能登半島の地震予知は0.1~3%で緊急性が低いとされ、県も対策を怠った。
先ずは被災者を一人残らず取り残さないことだ。石川県の地域防災計画は20年以上見直されず杜撰だった。水とトイレが特に深刻だ。想像を絶する生活が広がる。地震大国なのにトイレトレーラーは全国で僅か20台にすぎない。オスプレイ1機で400台も購入できるのにだ。他にも簡易トイレやマンホールトイレ、避難所の寒冷対策や簡易水道設置も遅れた。生理用品や避難用具は避難者数を多めに見積り、全ての自治体に最低でも1週間分は備蓄したい。災害時対応に関する全国の自治体間の情報共有の仕組みも作る。何より全国に23カ所もある半島への対策は急務だ。長崎県には3カ所もある。今こそ公助の出番だ。地震予知の見直しと原発停止は言うまでも無い。軍備よりも防災立国をこそ求めたい。
(人)
2024年2月号掲載
各医療機関は昨年より医療DX推進の工程表に従って顔認証付きカードリーダーとオンライン資格確認が必要とされ導入費、維持費と経費がかさんできている。
工程表によれば、この後23年度末から24年度初頭にかけ生活保護、訪問診療、地方公費、難病公費、オンライン診療に対してもオンライン資格確認を拡張予定で、それぞれ導入費用が掛かり、カードリーダー同様半額程度の補助金を払うとしている。しかし、申し込み締め切りはもうすぐなのに、まだベンダーにも情報が届いていないのが現状である。特に地方公費、難病公費はデジタル庁の管轄でまだ実証段階との事である。
これらがすべて導入されるとカードリーダー受付画面で「承認する・しない」の選択画面が倍増され、さらに受けつけ時間がかかり、窓口は混乱するであろう。医療機関も診療報酬は増えないのに、導入費、維持費がかさんでしまう。医療機関にとって、重複処方・相互作用情報がリアルタイムで確認できることしかメリットがない電子処方箋も義務化されると負担はさらに増えるものと思われる。
カードリーダーも導入時に10万円を補助金で補ってもらったが、これから開業する先生たちは20万円+導入料が必要とのことだ。医療DXは政府には都合がいいが、医療機関にとっては負担の多い政策である。
( 一)
2024年1月号掲載
内閣支持率の下落が止まらない。昨年末、毎日新聞の世論調査によれば岸田文雄内閣の支持率は16%と遂に20%を切った。2022年11月「しんぶん赤旗」日曜版のスクープをもとに神戸学院大学の上脇博之教授が東京地検に刑事告発したことに端を発した自民党のキックバック裏金疑惑は特捜部による安倍派・二階派に対する強制捜査にまで発展した。内閣官房長官を含めた政権幹部の交代が相次ぎ、今後内閣支持率がどこまで下がるか想像もつかない。
過去の内閣の最低支持率を振り返ると、2011年菅直人内閣が16%。民主党への政権交代に対する期待が大きかっただけに失望も大きかった。これに東日本大震災、福島第一原発事故が重なった。政権交代前2009年の麻生太郎内閣は13%。同年8月に日本原水爆被害者団体協議会との間で原爆症集団訴訟終結への「基本方針」が確認された。2001年の森喜朗内閣は9%。米国原子力潜水艦と練習船「えひめ丸」衝突事故の一報を受けながらゴルフを続け、日本中から非難を浴びた。
さらに遡ると竹下登内閣。リクルート問題に揺れ、1988年の内閣支持率はなんと7%。政権を細川連立内閣に譲り、戦後初めて自民党が野に下った。
2024年の政局はどのように動くのか。日本が道を踏み外さないように、国民が正しい選択をすることに期待したい。
( 孝)